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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1551号 判決 1996年3月27日

福岡市博多区博多駅前一丁目七番二号

控訴人(一審原告・一審反訴被告)

株式会社タイホウ物産

右代表者代表取締役

黒田正史

右訴訟代理人弁護士

武末昌秀

兵庫県西宮市甲子園口六丁目一番四五号

被控訴人(一審被告・一審反訴原告)

極東開発工業株式会社

右代表者代表取締役

米田稲次郎

右訴訟代理人弁護士

赤木文生

道上明

伊藤信二

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人と被控訴人との間で、被控訴人が控訴人に対し、特許第一五一五一八三号の特許権に基づき原判決別紙物件目録記載の物件の製造、販売の差止を求める権利を有しないことを確認する。

3  被控訴人の反訴請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、原判決の「第二 事案の概要」欄冒頭部分及び一ないし三に示されているとおりであるが、そのうち争点とこれに対する控訴人の主張を要約し、当審における控訴人の補充主張を付加すると、次のとおりである。

一  争点

被告製品は、本件発明の構成要件(5)「他側方に位置するアーム板の中央には減速装置の外筒をボルト止めし」を充足し、本件発明の作用効果<2>「減速装置の破損等にて修理もしくは交換する場合に、減速装置をロータ主体の他側方からボルトを外すのみで取り出すことができるので、修理等の作業能率を著しく高めることができる」、同<3>「ロータ主体をそのまま再利用できるので、安価に修理等を行うことができる」を奏するか(控訴人は、被告製品が本件発明のその他の構成要件(1)ないし(4)及び(6)ないし(8)を充足し、本件発明のその他の作用効果<1>、<4>を奏することについては争っていない。)。

二  争点に関する控訴人の主張

1  本件発明前の公知技術及び本件発明の出願経過を参酌すると、本件発明の構成要件(5)にいう「アーム板(注、ロータ主体の構成部分である)の中央には減速装置の外筒をボルト止めし」とは、減速装置の外筒をアーム板(ロータ主体)の中央に、ロータ主体を傷つけずに、かつ容易に着脱できるようにボルト止めすることを意味すると解される。

2  しかるところ、被告製品は、減速装置のアーム板(ロータ主体)にボルト、リング状当て材で溶接固定し、ボルトがゆるまずロータ主体から容易に着脱できないように固定しているのであるから、本件発明の構成要件(5)を充足しないことは明らかである。

3  そして、被告製品は、右のとおり減速装置の外筒がアーム板(ロータ主体)にボルト、リング状当て材及び溶接により強固に固定されているので、動力装置や減速装置の内部が破損等した場合、減速装置を容易にロータ主体から取り出すことができず(リング状当て材をバール等で取り外そうとしても時間がかかるし-そもそもバール等で簡単に取り外せるようでは、ボルトのゆるみ止めの役目を果たさない-、バーナーで溶接部を溶かしたりすれば、ロータ主体内部のオイルシール(ゴム等)が溶けたりしてロータ主体の再利用は不可能になる)、ロータ主体全体を交換するか、ローラー部分だけを再利用するにしても、これをロータ主体から切断、溶接する等の作業が必要になり、被告製品が本件発明の前記作用効果<2>、<3>を奏しないことは明らかである。

4  よって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属さない。

5  また、さらに補充して主張すると、ハウジング内の空間を利用し、かつ減速器をハウジング等にボルトで固定する構造は、特願昭五一-一四三九四三号(乙二四)において公知である。しかるところ、本件発明は、本件発明の分野における通常の知識を有する者であれば、右公知の発明から容易に考え得るものであり、本件発明の構成はほとんど公知の部分で構成されているといえる。そして、このような場合には、その特許発明の技術的範囲は、開示された実施例の範囲に限定して解釈されるべきであるから、本件発明の前示明細書に開示されている実施例と異なる被告製品は本件発明の技術的範囲に属さないというべきである。

6  以上、いずれにせよ、被告製品が本件発明の技術的範囲に属さないことは明らかであり、被控訴人の主張は理由がない。

第三  証拠関係

原審及び当審各訴訟記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

当裁判所も、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するから、控訴人の本訴請求は理由がなく、被控訴人の反訴請求は理由があるものと判断する。その理由は、次のとおりである。

一  争点に対する判断

1  まず、本件発明の構成要件(5)において、減速装置の外筒をアーム板(ロータ主体)の中央に「ボルト止め」したことの意義をみるに、本件発明の前示明細書(原判決引用)に「他方のアーム板には連結筒に内装した減速装置の外筒をボルト止めするようにしたので、・・・減速装置の破損等にて修理もしくは交換する場合にも、減速装置をロータ主体の他側方からボルトを外すのみで取り出すことができるので、修理等の作業効率を著しく高めることができ、またロータ主体をそのまま再利用できるので安価に修理等を行なうことができる。」旨の記載があること(原判決添付公報6欄14行~22行)、また、同明細書の第1図や実施例に関する説明(同公報3欄37行~6欄10行)を参照すると、本件発明においては、減速装置の一部が破損した場合には、ボルト16を外して内筒15と側壁3の結合を解除するとともに、円筒2と側壁3の結合を解除すると、構成要件(5)のボルト19が外せる状態となり、このボルト19を外すことにより、内筒15と外筒14と減速機構とが一体となった減速装置13をアーム板8(ロータ主体7)から取り外すことができるようになるものと認められ、こうすることによって減速装置の取り出しは、従来技術のもの(例えば乙一〇の二の特開昭五三-三六〇一〇号。そこではローラーを支持するハウジング内面に内歯車が一体的に形成され、ハウジング中央部が減速装置の一部を構成しているから、右の内歯車破損時にはハウジング全体を交換する必要があり、修理費用が高額化する欠陥があった)に比べ著しく容易になり、修理等もより安価に行うことができるようになるものと考えられること等を考慮すると、本件発明においてボルトを用いた意義は、ボルトのねじ機能を利用して減速装置をアーム板(ロータ主体)に結合するとともに、結合を解除する場合にもボルトのねじ機能を利用して減速装置をアーム板(ロータ主体)から容易に取り外すことができるようにしたことにあり、この構成をとることにより前示作用効果<2>、<3>を奏するものであると考えられる。

2  しかるところ、被告製品が原判決別紙物件目録記載の構成を有するものであることについては争いがないので、これにより被告製品における減速装置13nとアーム板8n(ロータ主体7n)の結合に関する構成をみてみると、減速装置13nの外筒14nとアーム板8n(ロータ主体7n)をボルト19nによって固定するとともに、ボルト19nとリング状当て材51を、右リング状当て材51に設けられたボルト19nの頭部中央位置に対応する小孔52を介して溶接付けしているものと認められる。

そして、被控訴人は、右構成を前提として、前示の溶接付けにより減速装置13nの外筒14nはアーム板8n(ロータ主体7n)に一体不可分的にゆるみなく強固に(ボルト19nが簡単にゆるまず容易に着脱できないように)固定されているから、被告製品の右構成は、本件発明の構成要件(5)を充足せず、動力装置や減速装置の内部が破損した場合には、ロータ主体7nの全体を交換するか、ゴムローラー10nをロータ主体7nから切断、溶接する等の作業を必要とするから、本件発明の<2>、<3>の作用効果を奏するものではない旨主張する。

3  しかしながら、被告製品における右構成を、減速装置13nとロータ主体7nを結合させる面からみてみると、減速装置13nの外筒14nをアーム板8n(ロータ主体7n)に結合させているのはあくまでもボルト19nであって、リング状当て材51はボルト19nの頭部中央位置に対応する小孔52を介してボルト19nの頭部に溶接されているにすぎないものと認められ、右溶接において、例えばボルト19nのねじ部まで溶かされる等して、ボルト19nのねじ機能が働かなくなるような状態で結合されていると認めるべき資料は何ら存しない。

そうすると、右溶接は、直接、減速装置13nとロータ主体7nを結合させることを目的としたものではなく、ボルト19nで減速装置13nの外筒14nとアーム板8n(ロータ主体7n)をボルト止めして減速装置13nとロータ主体7nの結合を実現したうえで、右ボルト止めのゆるみを防止し、右ボルトによる結合をより強固なものにするためのものであり、本件発明の構成要件(5)と同様の構成を前提とした設計的事項にすぎないものと考えられる(右溶接がゆるみ防止のためのものであることは、控訴人の前示主張自体からも窺える。)。

他方、右構成を減速装置13nとロータ主体7nとの結合を解除する面からみてみると、右溶接によりボルト19nのねじ機能が働かなくなるような状態で結合されていると認めるべき資料のないことは前示のとおりであり、そうだとすれば、何らかの手段で(例えば、リング状当て材51をボルト19nの頭部両側、近傍で切断する等して)リング状当て材51とボルト19nの結合を除した後ば、ボルト19nを回転させることができるようになるから、そのねじ機能を利用して減速装置13nの外筒14nとアーム板8n(ロータ主体7n)の結合を解除することができ、その結果、減速装置13nをロータ主体7nから容易に取り出すことができることは明らかである。

このようにみてくると、被告製品の右構成も、本件発明の構成要件(5)と同様、ボルト19nのねじ機能を利用して減速装置13nとロータ主体7nに結合するとともに、結合を解除する場合にも、ボルト19nのねじ機能を利用して減速装置13nをロータ主体7nから容易に取り出すことができるようにしているものであり、右構成要件(5)を充足するものであるということができ(もし、被告製品において、ボルト19nのねじ機能を利用した着脱を考えていないのであれば、ボルト19nを使用せず、減速装置13nの外筒14nとアーム板8n(ロータ主体7n)を直接溶接する等してもよいはずであるが、そうはしないであえてボルト19nを使用していることは、ボルト19nのねじ機能を利用した着脱により減速装置13nとロータ主体7nの着脱を容易に行うことを予定しているものと推認される。)、これにより、本件発明の作用効果<2>、<3>と同様の効果を奏するものと認められる。

もっとも、被告製品においては、既にみたように、リング状当て材51が小孔51を介してボルト19nの頭部に溶接付けされているため、減速装置13nをロータ主体7nから取り外す場合、まず、右リング状当て材51を取り外す作業を行わねばならず、その分だけ、かかる構成を有しない状態での本件発明のものに比べると着脱の作業能率が悪くなるが、減速装置が破損等した場合にハウジング全体の交換を必要とする前記従来技術のようなものに比べれば、はるかに容易に減速装置13nをロータ主体7nから取り外すことができ、ロータ主体7nをそのまま再利用することもできるので、安価に修理等を行うことができるということができる。

4  そうだとすると、右の溶接固定の構成の存在を理由として、被告製品は本件発明の構成要件(5)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しないとする控訴人の主張は採用できない。

5  また、控訴人は、本件発明は公知の発明から容易に考えられるものであり、その構成はほとんど公知の部分で構成されているから、その技術的範囲は実施例に示されている範囲に限定されるべきである旨主張するが、仮に右実施例限定の主張が成り立ち得るものであるとしても、それは本件発明がその出願前、全部公知であった場合に初めていえることであると考えられるところ、本件発明が出願前、全部公知であったと認めるべき資料はなく(控訴人指摘の資料、乙二四もこれを証するものでないことは、その内容自体から明らかである。)、控訴人の右主張も採用できない。

二  よって、控訴人の本訴請求を棄却し、被控訴人の反訴請求を認容した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 長井浩一)

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